インタビュー企画「ジブリパークを歩いて」Vol.21は『魔女の谷の夜』を手がけた山下明彦さんです。
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絵であることを忘れ
生きていると感じてほしい
ジブリパークを舞台にした初のオリジナル短編アニメーション作品『魔女の谷の夜』は7月8日よりジブリの大倉庫で上映しています。
宮崎吾朗監督と共同で監督を務めた山下明彦さんが〝ロケ地〞を巡り、本作品で取り組んだ表現技法や演出方法など制作の舞台裏を明かしました。
動き出す建物に〝質感〞を宿す
© 2026 Goro Miyazaki, Akihiko Yamashita/Studio Ghibli
この短編はジブリパークのアトラクションにしたいと、吾朗さんと共通の目的を持っていました。
難しいことは考えず、さらっと見て「面白かったね」と過ぎる。
飽きずに楽しんでもらえたらうれしいです。
実在の場所が舞台となっていますが、実物とそっくりなのはアニメーションのマジックです。
本物を踏まえ、大きさや位置関係、距離感を相当に誇張し、「エレベーター塔」は実際の10倍近い高さで高層ビルのよう。
大げさにやって本物に見せるのがアニメーションの良さであり、怠ってはいけません。
普段は人を動かす絵を描いているので、硬い建物を動かすのは大変でした。
そのまま動かしても面白くなく、ゆがませて「こんにゃく」のように動かしました。
跳ねて走る塔もいれば、おばあちゃん設定の家は腰が痛そうに動く。
一軒ずつ個性を工夫し、吾朗さんとアイデアを出し合い、キャラクターのように仕上げました。
今回挑戦したのが動く建物に〝質感〞を宿す手法です。
動く絵(セル)は通常ベタ塗りで、メカを動かす場合などは特殊効果の専門部署が質感を入れます。
今回は質感の段階的変化で動きを自然に見せるため、背景美術のスタッフが動き出す建物の脚に一枚一枚手描きで質感を加えました。
時間や予算の都合で長編ではなかなかできない、とても贅沢なやり方です。
脚本より先に絵を考える
通常とは逆の制作工程に
この短編は通常と逆の制作工程で、脚本なしで各シーンの絵を大量に描いていき全体の構成を決めました。
それを下敷きに吾朗さんと共にカットを足したり引いたりしつつ絵コンテにまとめました。
この方法は短編ならではでしょう。
長編の制作現場を共にしてきた宮﨑駿監督は絵コンテを描きながら脚本を考えています。
しかも、後からシーンを間引いたり追加したりすることはほぼありません。
それは高畑勲監督と『アルプスの少女ハイジ』(演出:高畑勲、場面設定・画面構成:宮﨑駿)や『母をたずねて三千里』(演出:高畑勲、場面設定・画面構成:宮﨑駿)といったテレビシリーズを制作したのが大きいように思えます。
高畑さんの絵コンテ技術を学び、手法を見つけられたのでしょう。
長編映画のA、B、Cパートをテレビの1話、2話、3話と同じ感覚で構成している。
高畑さんの手法をもとに頭の中の構成メモに沿って絵を描くだけで完璧な尺に収まるのです。
「人間」を描くこと
一番大切にしている
今の仕事に関わるきっかけは中学生の時の『ルパン三世 カリオストロの城』(監督:宮﨑駿)です。
面白すぎて、この世界に引きずり込まれました。
全て宮﨑さんのせいです(笑)。
ジブリ初参加は『千と千尋の神隠し』でオクサレさまからごみを引っ張り出すシーンを担当しました。
自分の腕が認められてありがたかった。
予定のシーンを終え去ろうとすると、宮﨑さんに「次のシーンもいきましょう」と依頼され、描いたのが千尋とハクの自由落下でした。
あるとき、宮﨑さんに「アニメーションは子どもだましで作っちゃいけませんよね」と話すと「いや、しょせん子どもをだましてなんぼですよ」と言われました。
真意は逆です。少しでも舐めると質は落ちる。
すさまじい覚悟の裏返しでした。
僕が一番大切にするのは「人間」を描くことです。
『ゲド戦記』でテナーが身をていして、倒れるハイタカを必死に抱き止めようとする描写。
どれだけ相手を思うのかをたった原画5枚の1カットで見事に描けたとき、ポロっときました。
こんな経験は人生で一度だけです。
僕は絵であることを忘れ、そこに生きていると感じてもらいたい。
そんな思いで作品と向き合っています。
山下明彦(アニメーション映画監督)
1966年、岡山県出身。スタジオジブリ作品は『千と千尋の神隠し』で初参加。
『ハウルの動く城』『ゲド戦記』『崖の上のポニョ』『借りぐらしのアリエッティ』『風立ちぬ』『君たちはどう生きるか』などで重要な役割を果たす。
三鷹の森ジブリ美術館オリジナル短編作品『ちゅうずもう』で初監督。
スタジオポノック制作『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』の一編『透明人間』でも監督を務め、第22回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞を受賞。
※掲載情報は2026年7月26日付です。展示等の最新情報はジブリパークウェブサイトをご確認ください。