インタビュー企画「ジブリパークを歩いて」Vol.19は昆虫学者・鈴木紀之さんです。
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生き物にとって
エリアの内と外に境界線はない
多くの生き物にとって、ジブリパークは暮らしやすい環境なのか――。
昆虫の生態学を専門とする三重大学の鈴木紀之准教授が巡りながら解説し、スタジオジブリ作品に描かれた人と自然の「緊張関係」も語りました。
ジブリ作品が描いた
人と自然の「軋轢」
僕の専門は「生態学」と呼ばれる分野で、チョウやテントウムシの「生き様」を研究しています。
なぜこういう行動をしているのか、どんな暮らしをしているのか。それを科学的に調べていく仕事です。
横浜の中でも身近に自然がある地域で育って、小学生の頃から虫が好きでした。
昆虫採集や標本作り、夏休みの自由研究も好きで、今もその延長にいます。
スタジオジブリ作品は人と自然の「軋轢(あつれき)」が描かれています。『平成狸合戦ぽんぽこ』や『もののけ姫』はまさにそう。
よく耳にする「共生」という言葉はきれいごとに聞こえてしまうところがあって。
実際は対立があり、その上で人は自然とうまく共存していかないといけません。
『もののけ姫』の乙事主がタタリ神になるシーンが印象的で、とても恐ろしく感じてしまいます。
だからこそ「もののけの里」にある「タタリ神」はもっと不気味のままいてほしいです。
虫の世界を取り上げておもしろい作品は短編の『毛虫のボロ』(宮﨑駿監督)です。
生き物視点の世界を人間が描くというのはすごく難しいことだと思います。
人間視点ではファンタジーのように映る描写も、毛虫はあのようにして空気や光などを感知しているんだろうなとなんだか想像できてしまいます。
研究で虫を観察するときは、想像力と論理の両方を使ってその視点に近づこうとしています。
例えば、ナミテントウが別種のナナホシテントウに出会ったらどう感じるか。
人間は両方の種類の存在も名前も知っているけど、虫の世界では果たしてどうなのか。
人間の主観だけで見ていると、生き物の認識とずれてしまう。気をつけないといけないところですね。
愛・地球博記念公園には
貴重な植物や昆虫が生息
ジブリパークがある愛・地球博記念公園は原生の森ではないのですが、人が手を入れて使ってきた、まさに里山のような場所です。
全国的に分布の限られているフモトミズナラというドングリの木が生えています。
「春の女神」と呼ばれるギフチョウも飛んでいるそうです(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)。
食草のカンアオイがシカの食害で減り、関西では壊滅的な地域もあります。
食草を含めた里山の環境が維持されていれば、珍しい昆虫もちゃんと存続できるんだと、改めて気づかされました。
庭や畑は一般的にイモムシや毛虫が大発生しやすい場所です。
でも、森の中では大発生している様子をあまり見ませんよね。
鳥やハチなどの天敵がいて、自然にコントロールされているからだと考えられます。
「オキノ邸」(魔女の谷)の庭園でイモムシが大発生していないのも、森のような公園の緑に隣接しているからではないでしょうか。
農薬に頼り切らなくても、バランスが保たれている。
生き物にとってはジブリパークの内と外に境界線などないのかもしれません。
楽しい空間で学ぶと
頭に残りやすくなる
ギフチョウのような珍しい生き物は生息地が孤立しすぎると絶滅してしまいます。
愛・地球博記念公園が広い丘陵地帯の一部として機能するから、ここで存続している。
もしジブリパークの周りがソーラーパネルで覆い尽くされたら、この自然や生き物は絶えてしまうでしょう。
それを防ぐため、ジブリパークの運営側では物事の本質を議論して判断できる人材を育て続けていくしかありません。
ただ、知識ばかりが必要なわけではなく、採れたての野菜を井戸水で洗って丸かじりするような、自然を大切にする感覚や感情でもいい。
3月に子ども向けに開催された昆虫教室のような企画もぜひ続けていってほしいです。
大学の講義はどうしても真面目になってしまいますが、ジブリパークという楽しい空間で学ぶ方が頭に残りやすい。
僕自身、ジブリパークから教育の現場に役立てられることを探っていきたいです。
鈴木紀之(昆虫学者・三重大学准教授)
1984年、横浜市出身。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。
立正大学地球環境科学部助教、高知大学農林海洋科学部准教授などを経て、2025年から三重大学生物資源学部准教授。
専門は昆虫の生態学。著書に『すごい進化』『ダーウィン』『博士の愛したジミな昆虫』など。ポッドキャスト『すごい進化ラジオ』も配信。
※掲載情報は2026年5月31日付です。展示等の最新情報はジブリパークウェブサイトをご確認ください。