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インタビュー企画「ジブリパークを歩いて」Vol.18は金原瑞人さんです。

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物語や登場人物をつくっていく
まさに「本のようなテーマパーク」

ジブリパークを巡った金原瑞人さん

翻訳家の金原瑞人さんがジブリパークを初めて巡り、数多くの文学に触れてきた経験をもとに、施設の特徴や宮﨑駿作品の魅力を独自の切り口で語りました 。

「地球屋」で思わず
「1冊ください!」

「哲学研究会部室」(ジブリの大倉庫)でガリ版の刷り物を見たとき、昭和の人間としてとてもうれしかったです。
僕は大学で印刷や本の歴史を教えていたのですが、授業ではいつも学生にガリ切りを実際にさせていました。
口で説明するだけでは覚えてくれないことも、実物を手にすると学生たちの目が輝く。
まさに「もの」がもつ力です。

「哲学研究会部室」でガリ版の刷り物に触れる金原さん

仕事柄、展示されている本の背表紙やタイトルを見てしまいます。
「地球屋」(青春の丘)で一番気になったのは「THE GENTLE ART OF SMOKING」という本。訳すと「喫煙のための優しい作法」でしょうか。
元喫煙者として強烈にひかれ、本棚に2冊あったので「1冊ください!」と言ってしまいました。
もちろん展示物だから難しいだろうけど、思わず言ってしまうほど気になる本でした。

「地球屋」の本棚で興味のある書籍を見つけた様子

「ハッター帽子店」(魔女の谷)にある「魔女の本棚」(魔女や魔法にまつわる書籍を販売)もいいですよね。
空間の雰囲気そのものが「本を買いなさい」と語りかけてくる。僕もキノコの本を1冊買いました。
ただ、今の2倍、3倍のボリュームがあってもいい。
より充実した空間になるよう、僕がおすすめのブックリストを送ることを約束しました。もっと拡充すべきですね。

希望の物語を裏打ちする
宮﨑作品の「絶望感」

スタジオジブリ作品で一番好きなのは『紅の豚』。のびのびと描かれた飛行機の物語が爽快で、文句なく面白い。
でもああいうヒロイックなファンタジーを、人間ではなく豚を主人公にしなければ描けなかったのかなと、自分なりに想像すると胸にきますね。

宮﨑駿監督との接点はロバート・ウェストールの「ブラッカムの爆撃機」の復刊がきっかけでした。監督の描かれた漫画と僕の訳した短編をまとめた本です。
この本が属するYA(ヤングアダルト)は両親の離婚やドラッグ、性、宗教など中高生が抱えるリアルな問題を正面から描くジャンルで、読んでワクワクした気持ちになれる児童書とは手触りが異なります。

YAと向き合う僕が宮﨑作品に共感するのは希望の物語でありながら、その裏に絶望感がしっかり描かれているところ。
『天空の城ラピュタ』ではロボット兵がいた一つの文明が滅んでしまったところから、次の世代の物語が始まっていることに象徴されます。
こうした絶望感は『風の谷のナウシカ』や、飛行機が一機も帰ってこなかった『風立ちぬ』にも通じています。
大人になって見直すと、そこが切実に、リアルに感じられるんです。

頭の中の登場人物は
自分と共に成長していく

ジブリパークで何よりびっくりしたのは登場人物がどこにもいないことです。
背景と物だけで構成されていて、訪れた人が触ったり眺めたりしながら、頭の中で自分なりの絵や物語をつくることができます。
本の世界と似ていますね。

本を読んでも登場人物の姿は描かれていないし、声も聞こえない。そこは自分で補っていくもの。
そして、かつて見たり読んだりして頭の中にいる登場人物は自分と一緒に成長していく。
だからジブリパークはずっと古びないし、何度来ても飽きない。
まさに「本のようなテーマパーク」です。

「オキノ邸」の書斎で"お仕事"
※撮影のため中に入っています

今はデジタルの技術が発達していて、翻訳もAIは結構うまいんです。
これからの翻訳は忠実に訳すだけでなく、自分の感性でどう語り直すかという明治時代の「翻案」に戻っていくのかもしれません。

そんなデジタルな現代において、ジブリパークのような場所はなくてはならないカウンター(対抗軸)になります。
VRのような映像体験がいくら普及しても、それは本物の世界がしっかり存在してこそ成り立つもの。
ジブリパークの楽しみ方は「来て、見て、触って」がふさわしいでしょう。
自分の想像する登場人物に出会えますよ。

金原瑞人(翻訳家)

1954年、岡山県出身。法政大学名誉教授。
児童書やヤングアダルト小説、一般書、ノンフィクションなど660点以上を翻訳。
訳書に「青空のむこう」「さよならを待つふたりのために」「月と六ペンス」など。
宮﨑駿監督がイントロ用に漫画を描き下ろした「ブラッカムの爆撃機」(ロバート・ウェストール著)の翻訳も担当している。

※掲載情報は2026年4月26日付です。展示等の最新情報はジブリパークウェブサイトをご確認ください。