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インタビュー企画「ジブリパークを歩いて」Vol.12は吉田昇さんです。

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誰もが懐かしさを感じる
光の表現を追求し続けて

ジブリパークを巡ったアニメーション美術監督・吉田昇さん

宮﨑駿監督らのスタジオジブリ作品で美術監督を務めてきた吉田昇さんが初めてジブリパークを訪れました。
自身とゆかりのあるジブリの大倉庫を巡り、背景美術の裏側を明かすとともに、映画の制作現場で長年一緒に過ごす宮﨑駿監督についても語りました。

短編は自由度が高く
実験的な思いで制作

吉田さんが背景画を担当したメインビジュアル

ジブリパークの公式ウェブサイトなどに掲載されている「中央階段」(ジブリの大倉庫)のメインビジュアルで背景画を担当しましたが、実物を見るのは今回が初めてです。タイルの色が想像以上にきれいで驚きました。
ジブリパークが完成するよりずっと前に、制作現場を指揮した宮崎吾朗監督からレイアウト原図や参考資料の写真を受け取り、全体の雰囲気は自分の中で想像しながら作っていったんです。天井部分は上から日の光が当たって、青空が抜けるようなイメージで描きました。

「映像展示室オリヲン座」で、美術監督を務めた『毛虫のボロ』を鑑賞

「映像展示室オリヲン座」(同)では、背景美術を担当した『コロの大さんぽ』(2025年10月上映)や『毛虫のボロ』などの短編映画が上映されていますね。短編はこれまで三鷹の森ジブリ美術館でしか見られなかったので、ジブリパークができたことで少しでも多くの人に届く機会が増えてうれしいです。
短編は長編と比べて自由度が高く、制作側としても実験的な気持ちで取り組めます。『毛虫のボロ』は、小さな毛虫の視点から、空想とリアリティーが混ざり合った世界観を表現。舞台のモデルになったのは東京都小金井市で、スタジオジブリから歩いて5分ほどの場所にある畑や道路です。劇中に登場するボロギクが群生している場所を探して歩きました。

宮﨑監督作品に描かれた
光の効果的な表現に感動

絵を描くのは小さい頃から好きでした。『ウルトラマン』『宇宙戦艦ヤマト』など、幼い頃はアニメーションや特撮の黄金期。みんな見ていたし、真似して描いていましたね。ほかに好きだったのはコローやミレー、印象派の画家たちによる風景画。ヨーロッパなどの遠い異国の景色なのに、身近な風景と共通する光の表現があると思ったのをはっきり覚えています。
日本のアニメーションでも、そういった感情を呼び起こすものにひかれ、宮﨑駿監督の作品がそうだったんです。特に『未来少年コナン』は光を効果的に表現していて感動しました。

高校卒業後、美大に通うために上京し、学生時代のアルバイトからこの業界に入りましたが、絵を描く仕事がしたかったんです。スタジオジブリへの入社は『もののけ姫』の制作時期に人手が足りず、声をかけてもらったことがきっかけでした。

キャラクターを立たせる
背景美術の大事な役割

ジブリ作品、特に宮﨑駿監督作品の背景美術において、やはり光の表現は大切にされています。写真のようなリアルな光ではなく、多くの人の記憶をくすぐるような光。誰もが共通してノスタルジーを感じるような瞬間をとらえてほしい、という宮﨑さんの感覚には深く共感します。
ただ、まだ自分の表現に満足できたと感じたことはないですね。同じ背景美術を手掛ける男鹿和雄さんや武重洋二さんはそれがとても見事です。
宮﨑さんは自分の好みの色を強烈に持っている方。背景になじむのではなく、画面の中にしっかり存在するようなキャラクターの色を重要視しているんです。私自身も背景美術はあくまでキャラクターを引き立てる「下支え」であることが大事だと考えています。

これまで苦労した作品はいろいろありますが、『君たちはどう生きるか』のキリコの部屋で、主人公・眞人(まひと)がテーブルの下で寝ている傍らに物がたくさん置かれる場面。光源の調整や物を追加する作業で、実はかなり手間がかかったシーンの一つなので、注目してみてください。

風景やものを見ていると、自然とそれをどういう風に描くかみたいなことを考えていますね。ああいう色なんだとか、ああいう風にハイライトが入るのかなとか、そういうことを無意識に考えてしまうのは、職業柄だと思います。

ジブリの大倉庫の企画展示「ジブリがいっぱい展」のトトロ・バーでくつろぐ吉田さん

吉田昇(アニメーション美術監督)

1964年、島根県出身。多摩美術大学油絵科を卒業後、アニメーションの背景美術に携わる。97年公開の『もののけ姫』に参加して、スタジオジブリに入社。『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『借りぐらしのアリエッティ』『コクリコ坂から』などの作品で美術監督を歴任。短編作品としては『コロの大さんぽ』に参加したほか、『毛虫のボロ』で美術監督を務めた。